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これまでに見てきたように、真皮の再生医療は、生体材料による再建が先行して行われた。それは、細胞成分が大部分を占める表皮と異なり、真皮では細胞外成分が大部分を占めるからである。

組織工学においては、その組織を主に構成するものが細胞かそうでないかによって、その再建手法は大きく異なってくる。皮膚のおける表皮と真皮の再生医療の手法の違いは、それを明確に示している。

真皮は、主に線維組織を構成する細胞外成分によって構成されているが、その以外にも、線維芽細胞や、マクロファージの一種である組織球、肥満(マスト)細胞、免疫に関与する形質細胞や真皮樹状細胞、さらには脈管系や神経系を構成する細胞が存在している。

真皮は基底膜という細胞外基質によって表皮と隔てられており、乳頭層、乳頭下層、網状層の3層から構成されている。表皮と真皮の間は、表皮突起と呼ばれる凹凸構造が見られ、乳頭層は、その表皮突起に食い込んだ部分をさす。線維性成分よりも、毛細血管や神経末端、線維芽細胞などの細胞成分が多い。また乳頭下層は、乳頭層直下の領域であり、構成成分は乳頭層と同一である。

一方、網状層は、コラーゲンなどの線維性成分の密な結合組織であり、真皮の大部分を占める。それ故、真皮の構造的な特性の大部分は網状層が担っており、真皮の再建には、コラーゲンなどを主とする網状層様の構造体が用いられてきた。

網状層を構成する細胞外成分(間質成分)には、コラーゲンが構成する膠原繊維、エラスチンが構成する弾性繊維、さらに糖鎖成分を多く含む細胞間基質などがある。膠原繊維は皮膚の力学的な強度を保つ役割があり、また弾性繊維は、皮膚の弾力性を生み出している。細胞外基質は、主に糖鎖が付加した糖タンパク質や、グリコサミノグリカンが多数付加したプロテオグリカン、タンパク質に付加しないヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンなどによって構成されており、水分の保持や、他の間質成分や細胞成分の機能保持に関与している。これらの細胞外成分を主に産生しているのが線維芽細胞である。


参考文献
清水宏、あたらしい皮膚科学、2005.

# by skin_regeneration | 2019-06-10 00:54 | 皮膚再生 | Comments(0)
組織工学による生体組織の再生、さらには再生医療という概念が、専門家だけではなく、世間に広く知られるようになったきっかけの一つが、マサチューセッツ大学のCharles A. Vacantiらが作製した、背中にヒトの耳が生えたかのようなマウス、通称ヴァカンティ・マウスの写真である。

実際には、マウスの背中にヒトの耳が生えたわけではなく、3歳の子供の外耳の型を取り、その型から生体によって分解可能な素材でヒトの外耳を作製し、そこに牛外耳から採取した軟骨を播種し、マウス皮下に移植したものである。移植後12週間はその形を維持しており、また新規軟骨の形成も観察されている。

この技術による外耳の再建は成功していない。一方で、再生医療といえば、このマウスのイメージを思い浮かべる人たちが未だに相当数いることからも、このマウスのインパクトは大きなものであった。そして、マウスの背中にヒトの耳を再生できるかのようなイメージそのものが、組織工学や再生医療への今後の期待感につながっていったのは間違いない。

参考文献
Cao Y et al, Transplantation of chondrocytes utilizing a polymer-cell construct to produce tissue-engineered cartilage in the shape of a human ear. Plast Reconstr Surg 100: 297-302, 1997.

大和雅之、おしゃべりな細胞たち、講談社、2012

# by skin_regeneration | 2019-05-20 00:33 | 皮膚再生 | Comments(0)
YannasとBurke、Bell、そして、Greenらが同時期に行ってきた皮膚再生のための技術開発は、今日では再生医療の先見的な研究と認識されているが、再生医療という学問的な枠組みが広く知られるようになる前は、これらは組織工学という学問分野の黎明期の研究とされていた。

組織工学 (tissue engineering) とは、細胞、生体材料、さらには成長因子などの細胞制御因子を組み合わせることで、生体組織を改善または置換することを目的とした技術の総称である。

Greenらによる表皮角化細胞を細胞増殖因子など利用して培養し、生体外で培作製した養表皮シートを表皮欠損部位に移植する技術、YannasとBurkeらによるコラーゲンとコンドロイチン硫酸を用いた人工真皮の開発と皮膚欠損部位への置換、Bellらによるコラーゲンゲルと真皮線維芽細胞による人工真皮と培養表皮角化細胞の組み合わせによる生体外での人工皮膚の開発、これらはすべて組織工学という学問分野を形作ってきた研究成果である。

組織工学という言葉は、今日では、再生医療という言葉と同義のように語られることが多いが、本来は、生命科学や工学などの研究分野で扱われていた技術を横断的に組み合わせることで、生理機能を持った人体組織の代替物を作製し、生体組織の機能改善や維持、回復を目指す方法論を指すものである。

この組織工学という領域横断的な学問分野が、重要であると認識されるようになったのは、1993年にロバート・ランガーとジョセフ・バカンティーによって発表された論文によるところが大きい。

彼らは、臓器の機能欠損や機能不全によって苦しむ人々を治療する方法として、臓器移植や外科的処理、さらには機械装置など、どれも現在の段階では不完全であることから、組織工学による人体組織の代替物による治療を目指すべきであると主張した。

組織を作るために、彼らは、細胞、細胞に組織を作らせる誘導因子、組織として細胞を定着させる基質の3点を重要な要素として挙げている。1993年の段階では、この細胞ソースとして幹細胞は最重要視されていなかった。しかしながら、現在では、多能性幹細胞や組織特異的幹細胞が組織再生において最も重要な細胞ソースであることが明らかになっている。

また、組織誘導因子の研究は、増殖因子の組み合わせるによる幹細胞からの多様な細胞種の作製技術の開発や、3次元構造を持ったオルガノイド形成の研究へと発展している。細胞基質の研究は、3Dプリンタやバイオプリンティングなどの技術によって、新しい段階に移行しつつある。

このように組織工学の進展によって共有された知識や技術が、この後に続く幹細胞研究を中心とした再生医療の潮流を生み出した要因の一つであることは間違いない。

参考文献
Langer R and Vacanti JP, Tissue Engineering. Science 260: 920-926, 1993.

Vacanti CA, The history of tissue engineering. J Cell Mol Med 10: 569-576, 2006.

# by skin_regeneration | 2019-03-27 00:03 | 皮膚再生 | Comments(0)
皮膚の再生医療では、Greenらのよる培養表皮シートと、YannasとBurkeによる人工真皮が臨床応用されたが、同じ頃にまた違った方向からアプローチした研究が存在する。それはマサチューセッツ工科大学のEugene Bellらによる複合型培養皮膚の開発である。

Bellらは、ヒトの真皮線維芽細胞を、ラットの尾から抽出したコラーゲンの溶液の中に混ぜ、その後、コラーゲンがゲルとなって固まると、線維芽細胞の働きによって、コラーゲンゲルが収縮することを見出した。また、この活性は、細胞分裂を重ねた線維芽細胞ほど低下することも明らかにした。彼らは、このコラーゲンゲル収縮が、傷が治る際の収縮現象を再現するものであり、この線維芽細胞入りのコラーゲンゲルは、真皮用の構造と機能を持つと推測した。

その後、彼らは、ラット真皮線維芽細胞入りコラーゲンゲルの上に、同じくラットから採取された表皮角化細胞を播種すると、コラーゲンゲル上で表皮様の構造を形成することを確認した。そして、この線維芽細胞入りコラーゲンゲルの上に表皮組織が形成されたものをSki-equivalent tissue(皮膚等価組織)とした。これは、生体外で細胞と生体材料を用いて表皮と真皮様の組織構造を持つものを組み合わせたもので、まさに人工皮膚と呼ぶにふさわしいものである。

Bellらは、この人工皮膚をラットに作った全層欠損させた皮膚に移植した。移植された人工皮膚組織は、生着し、傷の収縮を防ぐことができた。また表皮の多層化や移植組織内での血管網の構築も観察され、毛包構造などがないものの、移植されたラットの皮膚として機能することが示された。最終的に移植した人工皮膚部位に残った角化細胞や線維芽細胞が、移植組織由来か、それとも、移植されたラットの皮膚に最初から存在したものと入れ替わったものかは、未だに明らかにはなっていないが、皮膚欠損部を再生する優れた手法の一つとしてだけでなく、生体外で組織を人工的に作製し、生体へ移植して機能させることを初めて示した先駆的研究として、今日では認識されている。

人工皮膚を用いてBellらがラット皮膚全層欠損モデルの治療を行った論文が発表されたのが1981年であった。Greenらによる培養表皮シートと、YannasとBurkeによる人工真皮による初の臨床研究の成果が報告されたのも1981年である。これらの研究はすべて独立になされているが、現在における皮膚再生医療における基本的な技術は、この頃に確立された。

Bellらが開発した手法では、線維芽細胞は培養によって増幅されていたが、角化細胞は、皮膚から採取した表皮をそのまま酵素処理したものを利用しており、増幅はされていない。今日では、角化細胞も増幅可能であり、小さな皮膚片から、大きな皮膚欠損部位を治療することが可能である。今日では複合型培養皮膚と呼ばれる本方法は、非常に優れた皮膚再生技術である。

Bellはマサチューセッツ工科大学を退職後、皮膚などを生体外で再構築することを目指すOrganogenesisという会社を立ち上げた。現在でも、Organogenesisより、新生児由来の同種表皮角化細胞と真皮線維芽細胞を用いて作製した複合型培養皮膚であるApligrafが、難治性皮膚潰瘍などの治療用に販売されている。

培養表皮シートや、コラーゲンとコンドロイチン硫酸からなる人工真皮とは異なり、複合型培養皮膚を用いた大規模な臨床研究は行われていない。最も大きな要因は、作製コストの高さにあると言われている。しかしながら、この複合型培養皮膚は、皮膚そのものを生体外で模倣する優れた系として、特にヒトの表皮角化細胞と真皮線維芽細胞を用いたヒト皮膚モデルとして様々な研究領域で使用されている。 

Bellは大学で数学と物理を専攻したが、第二次世界大戦に従軍し、フィリピンやニューギニアでの戦闘で負傷した。その後、マサチューセッツ工科大学で大学の研究者として復帰し、生物学の教授となった。細胞と生体材料を組み合わせ、移植可能な器官そのものを始めて生体外で作り上げたことから、Bellは“組織工学の父”と呼ばれている。

参考文献
Bell E et al, Production of a tissue-like structure by contraction of collagen lattices by human fibroblasts of different proliferative potential in vitro. Proc Natl Acad Sci USA 76: 1274-1278, 1979.

Bell E et al, Living tissue formed in vitro and accepted as skin-equivalent tissue of full thickness. Science 211: 1052-1054, 1981.

Bell E et al, The reconstitution of living skin. J Invest Dermatol 81: 2s-10s, 1983.

# by skin_regeneration | 2019-02-07 00:21 | 皮膚再生 | Comments(0)
YannasとBurkeらが開発した人工真皮は、最終的には表皮を移植することで完成するため、人工皮膚としてまだ完成したとは言えない状態であった。一方、Greenらが開発した培養表皮シートも、創傷部に真皮が欠損している状態では、その生着率が低いことが問題となっていた。

そのような中、イェール大学の形成外科医であるCharles B. Cuonoらは、1986年に体表面の55%に熱傷(その内の80%がIII度熱傷)をおった患者に対して、屍体の皮膚を患者の損傷部に移植し、その後、移植した皮膚に残る表皮を削除し、患者自身の角化細胞から作製した培養表皮シートを移植したことを発表した。

この方法では、移植可能な屍体皮膚の準備が熱傷患者の治療時に必要であるが、真皮そのものを移植し、そこに患者由来の細胞が遊走することによって血管網などを構築している間に、患者自身の表皮角化細胞から培養表皮シートを作製することができる。そして、そのシートが移植可能になった直前に、抗原性の高い屍体皮膚の表皮を除去し、患者自身の細胞から作った培養表皮シートを移植することで高い生着率を達成することが可能となった。

この屍体皮膚によって再構築された真皮に移植された培養表皮シートは、多層化なども早く、剥離するようなこともなかった。その後、凍結保存した屍体皮膚でも同様に効果があることが証明され、このCuonoらが開発した方法は、1990年代に幾つかの施設で実施され、熱傷治療として成功を収めた。

しかしながら、このCuonoらの方法にも欠点があった。一つは屍体皮膚の準備である。特に東アジア地域では、臓器提供が普及しておらず、屍体皮膚の供給が難しい。もう一つは培養表皮シートの準備とのタイミングである。培養表皮シートを作製中に、移植した屍体皮膚やその表皮が脱落してしまう可能性と、逆に、培養表皮シートが準備出来たにもかかわらず、移植した皮膚にまだ十分に血管網が再構築されておらず、移植しても生着率が低い場合である。

これらの問題を克服するために、屍体皮膚の代わりに人工真皮であるIntegraを使用する方法が考えられた。つまり、熱傷によって皮膚が大きく欠損した部分に、まずIntegra を使用することで真皮を再構築し、その上に患者由来の表皮細胞から作製した培養表皮シートを移植する方法である。イギリスのPandyaらによって開発されたこの熱傷治療において、彼らは移植されたIntegraの上に培養表皮シートが生着することを確認した。

この方法は、熱傷治療として有効であると考えられたが、非常にコストが高いことが問題とされた。また、培養表皮シートとIntegraの接着には、Integraの内部に十分な線維芽細胞が存在し、表皮と真皮をつなぐ基底膜が十分に構築される必要があることが、その後の研究からも明らかになった。これらの理由から、培養表皮シートとIntegraなどの人工真皮を組み合わせた治療は、大規模に展開されることなく、今日に至っている。

参考文献
Cuono C et al, Use of cultured epidermal autografts and dermal allografts as skin replacement after burn injury. Lancet 1: 1123-1124, 1986.

Cuono CB et al, Composite autologous-allogeneic skin replacement: development and clinical application. Plast Reconstr Surg 80: 626-637, 1987.

Langdon RC et al, Reconstitution of structure and cell function in human skin grafts derived from cryopreserved allogeneic dermis and autologous cultured keratinocytes. J Invest Dermatol 91: 478-485, 1988.

Pandya AN et al, The use of cultured autologous keratinocytes with Integra in the resurfacing of acute burn. Plast Reconstr Surg 102: 825-823, 1998.

# by skin_regeneration | 2018-12-19 00:10 | 皮膚再生 | Comments(0)
YannasとBurkeらが開発したシリコン膜の人工表皮とコラーゲンとコンドロイチン6硫酸から成る人工真皮を組み合わせたこの人工皮膚は、最終的には真皮と置き換わることから、人工真皮と呼ばれるようになった。そして、Integraという名称で販売されるようになり、現在でも広く使用されている。

またウシコラーゲンとエラスチンの加水分解物から構成されるMatriDermという人工真皮も開発された。この人工真皮は、Integraにおける人工表皮に相当する部分を持たないので、移植後にメッシュ植皮をする必要があるが、血管形成が早く、再生真皮の安定性や弾性が改善されることや、分解速度が速いことから、Integraと比べ再生真皮の厚さが増加するなどのことが報告されており、近年、次第に使用されるようになってきている。

以上の人工真皮は、人工的に合成されたものであるのに対し、細胞成分を取り除いたヒト真皮であるAlloDermや、同様に細胞成分を取り除いたブタ真皮Permacolも販売され、臨床現場で使用されている。これらは抗原性の高い表皮や、他の細胞成分を取り除いているが、真皮の構造は維持されている。また表皮と真皮の境界面に存在する基底膜も保持されていることから、表皮細胞の生着や、線維芽細胞や内皮細胞の遊走、そして血管網の再構築も人工的に合成された真皮に比べ、より優れていると考えられる。

脱細胞化したヒトまたはブタ真皮の利用は、真皮再生の観点からは非常に優れている。しかし、表皮再生のために植皮などが必要であることや、感染リスク、さらには高コストであることが問題となっている。

参考文献
Chua AW et al, Skin tissue engineering advances in severe burns: review and therapeutic applications. Burns Trauma 3: 3, 2016.

# by skin_regeneration | 2018-11-26 00:14 | 皮膚再生 | Comments(0)
Greenらによって、自家培養表皮シートを用いた始めての熱傷治療が論文報告された同じ年である1981年に、YannasとBurkeらが開発した人工皮膚による熱傷治療の論文が発表された。この治療はマサチューセッツ総合病院とシュライナー熱傷研究所で行われ、I型コラーゲンとコンドロイチン6硫酸によって作られた人工真皮の上に、シリコン膜の人工表皮を組み合わせたものが使用された。コラーゲンは牛皮、コンドロイチン6硫酸はサメ軟骨から抽出された。

体表面の50~95%が熱傷によって損傷した、3~60歳の患者10人に対して、まず患者自身の皮膚を用いたメッシュ植皮が行われ、残った体表面に対して、人工皮膚による治療が行われた。今回の治療では、体表面の15~60%が人工皮膚で覆われることになった。

人工皮膚による治療は1979年に熱傷によって体表面の約半分に損傷を負った女性に対して始めて行われた。まず壊死した皮膚を取り除き、その部位に4インチx6インチ(約10センチx15センチ)の人工皮膚を欠損部位の形に合わせて整形し、配置した。

そして移植後に、人工皮膚が十分に生着し、傷が塞がったと判断された後、シリコン製の人工表皮が除去された。人工表皮を除去するまでに14~64日(平均27日)を要したが、この間に脱落や感染などはほぼ起こらなかった。

一例において血腫によって、移植した人工皮膚の一部が欠落した。数名の患者では、移植した人工皮膚にシワが形成された。この場合は、特に大きな皮膚片の移植に見られたが、その後の治療に大きな影響はなかった。また稀に、人工皮膚の端部において、シリコンの人工表皮が浮き上がることがあった。この浮き上がった部分の不規則な整形面に生じたが、面積が小さいので、その部分を除去し、治療は続行された。最終的な創部への人工皮膚の生着率は100%であった。

シリコン膜の人工表皮を取り除いた後、患者自身の正常な皮膚から、表皮をダーマトームという器具を用いて、0.004インチ(約0.1ミリ)の厚さで採皮し、人工真皮の上に移植した。この採皮された皮膚は、わずかに真皮を含むが、ほぼ表皮だけで構成されている。シリコン膜が除去された段階では、人工真皮内に血管内皮細胞を含む多くの細胞が遊走してきており、血管網の構築によって人工真皮内は十分に表皮を維持する能力を獲得していた。したがって、移植された患者自身の表皮は、85から95%の割合で生着した。

移植された表皮は、この血管が構築された人工真皮の上では迅速に機能を回復し、移植後10日~2週間で通常の表皮と同じ厚さになった。一部の患者へは、メッシュ植皮が行われたが、そのメッシュ状のパターンが移植部位では、ほとんど見られず、移植から数カ月が経過しても、注意深く観察しないとメッシュ状のパターンを認識することはできなかった。

またダーマトームで約0.1ミリの厚さで採皮した領域では、採皮後1週間で表皮が再生しており、その後も同一部位から採皮を行うことが可能であった。

移植後2カ月から16カ月の経過観察では、人工皮膚の移植部位に炎症反応は見られず、また移植片の脱落も起こらなかった。また、その間に移植部位が採取され、組織学的な経過観察も行われた。

まず移植後一週間で、移植された人工皮膚の底部に、周囲の結合組織から単核球や線維芽細胞、さらに血管内皮細胞の侵入が観察された。内皮細胞が形成する管腔構造には、赤血球が観察されたことから、すでにこの段階で移植片に血管網が構築され始めていると考えられる。さらに、侵潤細胞の周辺に新規の細胞外マトリックも観察された。また、移植された人工皮膚に接した創部には、炎症反応は見られなかった。

移植から2週間ほど経過すると、線維芽細胞や血管内皮細胞、さらに細胞外マトリックスの人工皮膚への侵潤はより顕著になり、人工真皮の底から約3分の2で、新しい結合組織の形成が行われていた。またこの頃になると、浸潤した結合組織内で、コラーゲンの合成が見られるようになった。

移植から5~6週間後には、シリコン製の人工表皮が除去されるが、その段階では、人工真皮内は、線維芽細胞や血管、さらに新しく合成された細胞外マトリックスでほぼ置き換わっており、この研究グループではneodermis(新生真皮)と呼ぶことにした。

このneodermisが形成された時期には、一部では筋肉との境界部分に瘢痕組織が認められたが、壊死組織の除去が不十分な場合に、瘢痕形成が起こるのではないかと、彼らは考察している。

さらに移植後4週間後にシリコン膜の人工表皮を除去し、自家表皮移植を行った部位をさらに3週間経過したのちに観察すると、neodermisの上に湾曲した表皮-真皮境界を持った正常の表皮と全く同じの組織像を観察することができた。

長期観察の結果として、人工皮膚同士の縫合部分や関節部分では、分厚い瘢痕組織の形成などが観察されたが、全ての患者において肥厚性瘢痕や組織拘縮が観察されなかった。

以上の結果は、彼らが提唱した生体適合性の高く、また生体によって分解・置換可能な素材で皮膚欠損部の真皮を再生させつつ、その間の表皮バリア機能は、一時的に感染と体液の流出を防ぐ素材で補完し、真皮が完全に再建された状態で、最終的に何らかの方法で本来の表皮組織と置換するというコンセプトが重度の熱傷治療に有効であることを明確に示した。

今回の方法では、シリコン膜の人工表皮を除去した後に、正常部位から採取した自家表皮移植を行ったが、この論文の中で、その代わりに患者自身の表皮角化細胞を培養し、移植する可能性について、Greenらの論文を引用して言及している。

この臨床研究は、その後、ランダム化臨床試験に引き継がれ、重度熱傷の治療において、これまで行われてきた患者自身の皮膚の移植や、他人の皮膚の移植などに比べて、有効出ることが示された。

参考文献
Burke JF et al, Successful use of a physiologically acceptable artificial skin in the treatment of extensive burn injury. Ann Surg 194: 413-427, 1981.

Heimbach D et al, Artificial dermis for major burn. A multi-center randomized clinical trial. Ann Surg 208: 313-320, 1988.



# by skin_regeneration | 2018-11-02 00:02 | 皮膚再生 | Comments(0)
コラーゲンと共に人工皮膚の材料として用いられるグリコサミノグリカンは、生体高分子の一種であり、糖が分岐せずに直鎖状につながった多糖である。特に結合組織において、細胞外の領域では、コラーゲンやエラスチンといった線維タンパク質は、細胞間物質とよばれるゲル状の構造の中に埋まった状態にある。この細胞間物質を構成するのがグリコサミノグリカン(ムコ多糖ともいう)である。

グリコサミノグリカンは、アミノ糖を含む2種類の単糖が連続的に結合しており、分子構造上硬い性質によって、折りたたまれた構造を取ることができない。また非常に水和されやすい(水分子が付加されやすい)性質を持つ。そのため、グリコサミノグリカンは、その重量に対して非常に大きな体積を占め、低い濃度であっても、水和ゲルを形成することができる。結合組織でのグリコサミノグリカンの重量は、タンパク質重量の10%以下であるが、細胞外領域のほとんどがグリコサミノグリカンによって占められている。

グリコサミノグリカンによって作られた水和ゲルは、構造を保ちながら外部からの圧縮力に抵抗しつつ、その間隙の多さによって、栄養分や代謝物、さらにはホルモンなどの生体情報物質の迅速な拡散を可能にする。

グリコサミノグリカンは、①ヒアルロン酸(ヒアルロナン)、②コンドロイチン硫酸およびデルマタン硫酸、③へパラン硫酸、そして、④ケラタン硫酸の主に4つに分類される。それぞれのグリコサミノグリカンに関する詳細は割愛するが、人工皮膚に用いられたコンドロイチン6硫酸は、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-ガラクトサミン6硫酸が結合した二糖が直鎖上に結合した多糖である。

ヒアルロン酸を除くグリコサミノグリカンは、生体内ではタンパク質と共通結合しており、プロテオグリカンと呼ばれるタンパク質の一群を形成している。多数のグリコサミノグリカンが結合しているプロテオグリカンの分子は巨大である。例えば、軟骨の主要成分の一つであるアグリカンは100個以上のグリコサミノグリカンが結合したプロテオグリカンであり、その分子量は300万ダルトンである。

参考文献
Albert B, et al, Molecular biology of the cell. 6th ed, 2015.

ヴォート、(田宮他訳)、生化学、東京化学同人、1992.

# by skin_regeneration | 2018-08-15 00:24 | 皮膚再生 | Comments(0)
YannasとBurkeが提唱した人工皮膚では、ステージ1とステージ2で異なった特性が要求される。そこで、彼らは、人工皮膚を実現するために、それぞれのステージに特化した機能を持った2種の素材から構成される2層構造のシートを考えた。

熱傷治療の急性期であるステージ1で必要な特性は、水分の蒸発と感染の防止である。これに対応する素材として、Yannasらはシリコンのフィルムを選択した。

生体を構成するタンパク質や糖質で作られたシートでは、容易に分解され、また水分の蒸発を防ぐことは難しい。一方、シリコンはすでに生体適合性の高い物質として知られており、生体内で分解されることなく、また水分の透過性も低い。急性期の治療には、このシリコンのフィルムが最適であった。

続いて、ステージ2で必要な特性は、傷の収縮と瘢痕形成の抑制である。慢性期の治療というこの目的に合う素材は、最終的に生体組織によって置き換わるものが必要である。Yannasらは、ここでコラーゲンとグリコサミノグリカンから構成される高分子素材を、ステージ2の治療のために選択した。

コラーゲンは架橋することで、生体での分解速度を遅くすることが出来たが、グリコサミノグリカンを加えることで、架橋なしに分解を抑制することが可能であった。これによって、架橋程度を抑え最適な強度と分解速度を持ったシートの形成が可能となった。

また、グリコサミノグリカンを加えることで、コラーゲン素材に細胞の移動や、その細胞の活動に必要なガス交換や栄養素の供給に十分な孔が形成される。これは、人工皮膚が時間をかけて最終的に、患者自身の細胞と組織に置き換わるには必須の特性である。

グルコサミノグリカンそのものは生体高分子の一種であり、強い抗原性を持つものではない。コラーゲンとグルコサミノグリカンは酸性状態では複合体を形成するが、中性では解離することから、人工皮膚としてコラーゲン-グルコサミノグリカン複合体が一定期間安定に存在するには、両者の架橋が必要である。

実際には、ウシの腱より抽出したコラーゲンと、サメの軟骨に多量に含まれるグリコサミノグリカンの一種であるコンドロイチン6硫酸を混合して凍結乾燥し、化学架橋することで人工皮膚として用いられた。

このように、傷の外部からの新生組織の侵入と最終的に生体組織に置き換わる真皮疑似組織をコラーゲン-グリコサミノグリカン複合体によって形成し、一方で、シリコンフィルムによって外部からの病原体の侵入と体液の流出を防ぐ湿潤環境を維持する人工皮膚が開発された。

生体によって分解されないシリコンフィルムであるが、十分に真皮組織が回復したのちに除去され、その後、表皮角化細胞が遊走し、表皮を再生させることで、その機能を終えるように設計された。

参考文献
Yannas IV and Burke JF, Design of an artificial skin. I. Basic design principle. J Biomed Mater Res 14: 65-81, 1980.

Yannas IV et al, Template for skin regeneration. Plast Reconstr Surg 127 (Suppl): 60S, 2011.

# by skin_regeneration | 2018-06-15 00:35 | 皮膚再生 | Comments(0)
熱傷などによる広範囲の皮膚の消失は、病原体の感染と体液の流出によって患者の身体に重篤な症状をもたらす。また、生命の危機を脱したとしても、瘢痕などの大きな障害が残る。

皮膚欠損部分を何らかの方法で覆い、熱傷患者を救う試みは、紀元前約1500年まで記録を遡ることができる。そのなかで、患者自身の皮膚を移植する自家移植が、最も優れた方法であることは間違いが、この方法は、広範囲の皮膚欠損には適応できない。他人(死体を含む)や、動物(主にブタ)の皮膚を移植する方法もあるが、この方法でも、一時的にしか適応できない。

しかしながら、ブタ真皮をタンパク質分解酵素で処理することで、細胞や可溶性のタンパク質を除去し、主にコラーゲン線維のみにした真皮を創傷部位に移植すると、免疫反応による拒絶もなく、次第に分解され、最終的に生体の組織と置き換わっていくことが報告されていた。

同様にコラーゲン線維で作られたシートを使う方法も開発されてきた。この場合、動物組織からコラーゲン線維を抽出し、架橋形成の促進や酵素処理で、免疫反応を起こさせないような工夫がされていた。

このような状況のなかで、YannasとBurkeは、創傷治癒に必要な人工皮膚な特性について、彼ら自身の共同研究の成果やこれまでの様々な研究を踏まえた上で、その基本原理を説明する論文を発表した。

まず彼らは人工皮膚が必要となる2つのステージを定義した。一つ目は、最も緊急性の高い感染と体液流失の防止である。二つ目のステージは、瘢痕形成の抑制である。

ステージ1で必要な人工皮膚の物理特性は、柔軟性に富み、外科的に十分に処理された創面に対して、気泡などを作ることなく密着することである。また、創面を湿潤に保ち、かつ、水分の蒸発を防ぐシートである。以上のような特性のシートは十分に細菌感染も予防できる。

このシートは、自然に、または人為的に生体組織によって最終的に置き換わることを前提とすれば、短期間において、感染と体液流出を防止するという目的に特化できることで、本来の皮膚の主要な機能を全て備える必要はない。そうであれば、ゴムのような素材が、この目的に合致している。

続いてステージ2で求められる人工皮膚の特性は、感染の抑制と水分の保持を行いつつ、傷の収縮や瘢痕形成を抑制することにある。この場合、長期間に渡って機能するものが必要となる。

上記の目的を達成するものとして、まず、皮膚と同等のモノを人工的に開発することが望ましいが、技術的にこの段階では不可能であった。そこで彼らが考えたのは、生体適合性が高く、最終的に分解され、生体組織と置き換わるような物質である。

ここで重要なポイントは、この人工皮膚の生体における分解速度である。あまりにも早く分解した場合、この人工皮膚は機能を果たすことができない。しかしながら、分解が遅すぎる場合には、この人工皮膚の周辺に線維状組織が形成されてしまうことを、彼らはすでに経験していた。このように、生体による人工皮膚の分解速度の制御は極めて重要である。

もう一つの重要なポイントは、人工皮膚への創面からの細胞移動と、その細胞の活動に必要なガス交換や栄養素の供給である。つまり、この人工皮膚には細胞が内部に移動してこられるだけの十分な孔が必要であり、また、拡散によって、ガスや栄養素が十分に創面から行き渡るだけの大きさに限定する必要がある。最終的には、この人工皮膚内に移動してきた血管内皮細胞によって血管が形成されれば、ガス交換と栄養供給の問題は解決されるが、それまでの間は拡散に頼るしかない。

以上のような特性の人工皮膚ができれば、広範囲の重度熱傷の治療に応用できると、YannasとBurkeは提唱したのである。

参考文献
Yannas IV and Burke JF, Design of an artificial skin. I. Basic design principle. J Biomed Mater Res 14: 65-81, 1980.

# by skin_regeneration | 2018-05-23 00:20 | 皮膚再生 | Comments(0)